三下り

いきなからす

粋なからすは夜明けにゃなかぬ ちょいとな 野暮なからすがめちゃになく ちょいと ちょいと ちょいと 飛んで来る <奥付がない小唄集より>

いざさらば

いざさらば 雪見よろこぶところまで 連れてゆかりの向島 梅若かけて屋根舟に 浮いた世界じゃないかいな <奥付がない小唄集より>

潮来出島

潮来出島の真菰の中で あやめ咲くとはしおらしや <奥付がない小唄集より>

宵の銀座

宵のネオンは薄紫に 染めて暮れゆく石畳 濡れていきませう通り雨 さよならなんて言わないで すねてあまえたあの子の肩に 銀座柳がゆらゆらと

粋な浮世

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 粋な浮世 三下り 粋な浮世はわしや楽しみよ命と書いた二世の 文字にじむこゝろはないわいな

桃の花

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 桃の花 三下り 桃の花あかき灯影やぼんぼりのこの朧夜を 女夫雛二人して酌む白酒に声も出ましよ眠く もならうまあ重たげなあのまぶた

羊の春

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 羊の春 三下り 今年よい年羊の春よ山とつまれた宝の紙は 紙ハ紙ぢやがお札の紙よ喰きれますめえ羊の当り年

人の情

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 人の情 三下り 花さそふ風もあるのに花ちらす風もあるとて 雨もまた人の情のいろいろに降る雨

人知れず

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 人知れず 三下り 人しれず逢ふ夜桜や向島花の嵐に明の鐘

鬢のほつれ

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 鬢のほつれ 三下り 鬢のほつれハ枕のとがよそれをお前にうたぐられ 勤めぢや苦界ぢやゆるしやんせ

人とちぎるなら

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 人とちぎるなら 三下り 人とちぎるなら薄く契りて末までとげよ紅葉 ばを見ようすきが散るかこきがまづちるもので候 さうぢやわいな

四季 夏

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 四季 夏 三下り いつしかに二人の仲も深みどり願ひ叶ふて遠出まげ 結ふも嬉しき蚊屋の内マクラに通ふ浪の音磯松 風にさそはれて夢まどかなる夏の夜

四季 春

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 四季 春 三下り はや更けて又の逢ふ瀬の約束を堅めかため し口説さへ楽しく送る門口に花もかすみて月も またおぼろに見ゆる春の宵たゞなんとなくうれ しうてつひ寄り添ひし肩と肩

春色八犬伝

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 春色八犬伝 三下り 四方に照る玉のゆくへや初霞おもひそめたる 紅筆につゞりし文字の五ツ三ツ逢た其夜のかたみ にはいろ深見草かきそへて 深見草とは、牡丹のことらしいです

社頭の雪 あたる恵方

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 社頭の雪 あたる恵方 三下り あたる恵方の御社にぬかづく折も初雪や思はぬ 方のさしかけし相合傘の道連も結ぶ縁しの深い謎

社頭の雪 神かけて

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 社頭の雪 神かけて 三下り 神かけて大吉祥とふしおがむ人の心も白雪の とけてうれしき春のなぞ

四條の橋

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 四條の橋 三下り 四條の橋から灯が一とつ見ゆるあれは二軒茶やの 灯か丸山の灯かえゝさうぢやえゝさうぢやいな

時雨して

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 時雨して 三下り 時雨して待つ身はつらき蔦紅葉おとなう ものは軒の雨しめり勝なる床の花

巳の春興

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 巳の春興 三下り 繭玉やこち吹けば東風あちらへもなびきて 肩へ蒔ひかかるソレ手元へしつかりと握らんせ こがねしろがね咲匂ふ花もみどしの春永に

三日月

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 三日月 三下り 三日月のひかり出ぬ間にちよと駆け出す恋の習か 人目が邪魔かまがる横町の柳かげ

三浦屋

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 三浦屋 三下り 三浦屋の高尾太夫さんぢやなけれ共紅葉バの青葉 に茂る夏木立我は親はらからの芸者ぢやないよ

目みえそめし

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 目みえそめし 三下り 目みえそめしは昨日けふつきぬ縁とてまた逢ふ 夜半のいひたい事もやま山吹のいはぬ色なる身の辛さ

夕霧

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 夕霧 三下り すゝきより萱より細き二日月君ゆゑつなぐ 玉の緒の三五十五夜さまを待つぞへ

ゆかりの花

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より ゆかりの花 三下り 緋桜や太夫桜や江戸ざくら浮かれて通ふ 助六が一ツ印籠一ツ前ぬれてぬるゝ夜はナア雨のみの 輪か辻占茶屋か煙管の雨が降るわ降るわと脂下り

夕焼

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 夕焼 三下り 夕焼の空に見とれてうつとりと大川端のたゝ ずまひ面舵とり舵水は上げ潮下るは荷足人目 を忍ぶ屋根舟に仇な姿の簾越し志こやしこ 鰯こひいつの間にやら夕川岸の声に涼しいお月様

夕立の晴れて

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 夕立の晴れて 三下り 夕立のはれて染め出す水色の空にハ虹の橋渡し 見あひ見かはす船の中のぞく筑波の笑ひ顔

夢の手枕

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 夢の手枕 三下り 夢の手枕つひ夜が明けて別れ煙草の思ひの煙り おもふ方へとなびきよる

雪ぞらに

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 雪ぞらに 三下り 雪空に暖められつ暖めつそして寒さに帰さりよか

雪はともへ

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 雪はともへ 三下り 雪はともへに降りしきるつもる話の口舌から木曽殿 ならですねた夜は背中合せの寒さかな

夕立や田を

小唄江戸紫 中田治三郎(昭和23)より 夕立や田を 三下り 夕立や田を三めぐりの神ならバ葛西太郎の 洗ひ鯉さゝがかうじて狐拳ほんにぜんせいなこと ぢやえ堀の船宿竹屋の人と呼子鳥